今回、お迎えしたのは、劇団・新宿梁山泊を主宰し、演出家として、また俳優として旺盛な活動を展開する金守珍(キム・スジン)氏。お迎えしてというより、新春三本連続公演(『風のほこり』『少女仮面』『ロミオとジュリエット』)を控える年末、稽古の合間を縫って新宿梁山泊のアトリエ「芝居砦・満天星」に押しかけての対談となりました。

何の変哲もないマンションの階段を降りていくと、あたかもそこは巣窟!いや失礼、文字通り芝居の砦が待ち構えていたのでした。在日韓国人としての深い思い、演劇について、社会について話は尽きず、予定を大幅に越えて話は続きました。

増ページでお贈りしますが、それでも多くの興味深いお話をカットしなければなりませんでした。是非、新宿梁山泊の舞台に足をお運びいただき、金さんの思いを体感してください!

金守珍(キム・スジン)
金守珍(キムスジン)

1954年生まれ。新宿梁山泊代表


蜷川スタジオを経て、唐十郎主宰「状況劇場」で役者として活躍。
蜷川と唐という「アングラ・小劇場」の代表とも言うべき演出家から直接に指導を受ける。その後、新宿梁山泊を創立。旗揚げより新宿梁山泊の演出を手掛ける。テント空間、劇場空間を存分に使うダイナミックな演出力が認められている。89年「千年の孤独」でテアトロ演劇賞受賞。93年「少女都市からの呼び声」で文化庁芸術祭賞受賞。98年「飛龍伝」で読売演劇大賞演出家賞受賞。また、俳優としても活躍しており、主な出演に、舞台・蜷川幸雄演出「血は立ったまま眠っている」、映画・「彼岸島」などがある。01年、映画「夜を賭けて」にて初監督。02年全国公開され、第57回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人監督賞、2002年度第43回日本映画監督協会新人賞を受賞。 現在、韓国全州大学客員教授。2月16〜24日、芝居砦・満天星にて「ロミオとジュリエット」(演出・出演)が公演される。

 
『百年 風の仲間たち』に魅せられて


佐々木 お稽古でお忙しいところご免なさい。実は私、先日拝見した『百年 風の仲間たち』がすごく面白くて、何か胸の中でモヤモヤしていたものが吹き飛んだ感じがして……。それで少しお話を伺いたくて、今日はお邪魔しました。


 『風の仲間たち』は去年、韓国でオーディションして役者さんを集めてつくったんですけど、実は「百年節」という歌が先にあったんです。趙博(チョウ バギ)という方の歌を聞いたとたん、「ああ、これを僕らは今つくらなきゃいけないな」というインスピレーションが湧いて。それで彼に脚本を書いてくれとお願いしたところ、書いたことないから無理だと言われたんですけど、壮大な百年を十五分の歌にまとめる力があるんだから、と書いていただいたんです。
韓国のトゥサン(Doosan)・アートセンターで境界人、狭間に生きる人たちをテーマにしたシリーズがあって。在日も日韓の間の人間で、北朝鮮ともそうですけど、マイノリティ社会を形成しているわけでもない。どっちかに付かなくてはいけないんですね。でも、そろそろどっちにも付かずにいられないか、そういうことをお芝居にしたらどうかな、と。それで彼とマッコリを飲みながらいろいろ話をして書いてもらって……。これから四、五年かけて成長させようと思ってるんです。震災の前に書いたんですけど、震災後いろんな変化もあるし。僕らも大統領選挙への投票権もできて、いろいろ希望もあるんですが、今回の日韓双方の選挙を見てると本当にこれでいいのかなと。投票率も低いし諦めムードが漂ってますよね。なんか「いつかきた道」みたいな。

佐々木 えっ、ご免なさい、大統領選挙に投票権ということは、向こうの?

 そうです、僕ら在日韓国人も選挙権がもらえるようになったんです。生まれてはじめて選挙というものに行ってきました。四谷にある韓国文化院という所で。

佐々木 ああ、それを伺えてよかったです。私たち何も知らないんですよね。
ちょっとお話ししますと、私の両親を含む文化座の先輩たちは敗戦間際にお芝居を持って渡満して、向こうで敗戦を体験しているんですね。帰国までの一年間は中国で生活していました。メンバーの中で父の演出助手をしていた人が韓国人のお父さんを持った人で。帰国後間もなく『春香伝』を取り上げているのもその影響があったと思います。私なんかは、李恢成(イ フェソン)さんの『百年の旅人たち』や梁石日(ヤン ソルギ)さんの『血と骨』を読んでも、日本の裏面史の重みにはただ驚くばかりで……。
そう云えば、私の若い頃に起った金芝河(キム ジハ)さんの死刑判決や、在日の学生さんが韓国で捕えられた徐兄弟の事件、金時鍾(キム シジョン)さんの詩の背景にある済州島の四・三事件……。あれは一体どういうことだったんだろうとか、この頃しきりとそんな疑問が湧き上がってきたんですね……。それで偶然手にした一枚のビラを頼りに明治大学で学生さんに交じって徐勝(ソ スン)先生のお話を聞いたり、済州島事件の追悼集会に参加してみたり。その時聞いたんですよ、あの趙博さんの「百年節」! 頭をガツーンってやられました。韓国併合百年への在日の人々の思いを込めた「百年節」。そのお芝居じゃないですか、『風の仲間たち』は。もうビックリして、帰りにCD買ってバギやん(趙博)に握手してもらって帰ってきました。歴史を記憶する、そして乗り越える、あのエネルギーと底抜けの明るさに脱帽です。

 ありがとうございます。

佐々木 今年初めて韓国公演をしたんですが、たまたまソウルの初日が李明博大統領が独島・竹島に行った日だったんですよ。日本からは「大丈夫?」ってメールがたくさん来たんですけど、街もお芝居を観てくださる人たちも全く大丈夫だったんですよね。
『風の仲間たち』は、政治と違うところでもっと人と人とがつながり合えるところがあるんじゃないかっていう希望が持ててスカッとしました。

 今度三月に、日本でやったバージョンを韓国の人に観てもらおうと思ってまた里帰りします。役者が変わるとこんなに違うんだ、という文化の違いを伝えるのも使命かなと思って。

 

(2ページ目に続く)